ここ十年間でわたしたちが一日に触れる情報の数は、
何百倍にも何千倍にもなったと言われている。
一方で、わたしたちの情報処理能力はほぼ一倍。
ほとんどの情報を捨てざるを得ない時代を生きているということになる。
そのちょっとした宝くじくらいの倍率をくぐり抜けて、
受け手に情報を届けるためには「関与度」というものが
とても大切だなあとつくづく感じている。
少し乱暴に言えば、「自分に関係ある」内容を、
「自分に関係あるな」と思う伝え方で伝えることができれば、
情報はちゃんと伝わるのではないかということだ。
2016年の暮れだったか、
最強の関与度を誇る情報伝達手段「仲のいい友人からのメール」で、
とあるクラウドファンディングの存在を知った。
それは、石見銀山にある古民家の茅葺屋根を修復するために
資金を集めているというものだった。
友人からの頼みに弱いぼくは、
迷うことなく(正直、すべての説明を読まずに)支援をした。
そのプロジェクトは目標金額を達成し、茅葺屋根は無事修復。
後にお礼品として宿泊券が届き、
先週末ぼくは島根県の石見銀山を初めて訪問した。
美しい茅葺屋根の古民家は、民家ではなく会社の社屋であった。
石見銀山に拠点を置く「石見銀山生活文化研究所」は、
群言堂などのブランドを展開するファッションや雑貨を製造・販売している会社だ。
国内で30店舗以上を展開し、全国にファンも多いこのブランドの洋服は、
すべて石見銀山にあるアトリエでデザインされている。
ここ石見銀山の大森地区の人口は約400人、
そのうち社員だけで約50人を占めているというから驚きだ。
地域と会社が密接に関わり合い、よい関係を築いている。
石見銀山生活文化研究所は、洋服や雑貨を販売する傍ら、
武家屋敷を改装した宿泊施設も運営している。
夕食はオーナーである松場夫妻とともに食卓を囲むスタイルだ。
地域の食材を使った食事。
長い時間によって研ぎ澄まされた美しい台所。
松場夫妻による軽妙で冒険心を掻き立てられる会話。
そのすべてが調和して、本当に心地の良い時間が流れていた。
他の宿泊客は、北海道と東京から来たという。
遠くからわざわざ訪れる理由は、
石見銀山が世界遺産だということとは関係なく、
ここに本物の価値があるからだろう。
食事の後は、電気ガス水道を一切ひいていない応接用の家に招かれた。
「ここは文明を排除してみる実験の場所でね。こうやって遊んでるんです。」と、
松場大吉さんはやさしく笑う。
未来に日本文化の素晴らしさを残したいというビジョンを持ちながらも、
ストイックになりすぎず目の前を遊んでいる姿を見て、
改めて遊びの大切さを痛感。
流れる水の音と蝋燭の灯だけ構成された空間は、
しっかりと情報を受け取るには最高の場所。
いつの間にか、石見銀山はぼくにとって関係のある町になっていた。