kitenとの縁を運んでくれたのは一人の友人だった。
彼とは岩手県の遠野市で知人を介して出会い、音楽の趣味が合ったことで数時間で意気投合した。
働き方と暮らし方、いま多くの社会人が考えていることに彼も多くのエネルギーを割いていた。
遠野に来た理由も、移住を検討するための視察だったのだ。
結局遠野に移住することはなかったけれど、彼はその後東京で勤めていた会社を退職し、日本縦断の旅に出た。
闇雲に自分探しの旅をするわけではなく、器を売る店をやりたいという輪郭のはっきりしたビジョンがあった。
お店の準備のために、全国の作家さんにお話を聞きに行き、目には映らない作家さんの魅力を記事にしたいという。
僕は退職祝いに、記事を執筆できるようなWEBサイトをつくり、プレゼントした。
大きな挑戦をする姿は、周りの人に何かしたくさせるものだ。
出発した日に車が故障したという幸先の悪い報告を受けたきり、彼からの連絡は途絶えた。
できたてのWEBサイトにも旅の記録が掲載される様子はない。
旅立ってから1ヶ月以上が経ち、近況を聞きたい気持ちもあったが、人生の大切な時間を過ごす友人の気を散らさないように、連絡をすることは控えた。
旅立ってから3ヶ月以上が経ったころ、「ようやく帰宅した。報告があるから会いたい」という連絡があった。
待ち合わせた週末の新宿は、どのお店も混んでいて落ち着いて話せる場所がなかなかなかったが、ビックロの近くのケーキ屋さんのカフェ席に席を確保した。
辿ってきた旅のルートや出会った人たちの話をしてくれたが、もっと何か大きな報告があるんだろうなと聞いていた。
「それで、報告なんだけど・・・」
彼は少し歯切れの悪い口調で続けた。
「おれが、作家になることにしたよ」
これ以上ないシンプルな報告。
僕は予想もしない報告に驚くべきだったのだろうが、驚くよりも先に納得と喜びが感情の器を埋めつくし、「いいね!」というSNSで1クリックで言える言葉しか口から出てこなかった。
日本全国の陶芸作家に会う中で、その存在自体に惹かれ、旅の中で何度も通い、無理を言って弟子にしてもらったという。
「この人みたいになりたいと思ったんだ」と純粋な気持ちを振り返るように言った。
子供のころ僕たちは、「将来何になりたい?」と先生に聞かれる。
そして、なりたいものを答える。
成人すると僕たちは、「何をしたいですか?」と面接官に聞かれる。
そして、やりたいことを答える。(多くの場合、ちょっと誇張して)
面接官に「あなたみたいになりたいんです」と答えることはあまりないだろう。
いつしか、BEの志が、DOの志へと変わっていく。
そのことがいいのか悪いのか、僕にはわからないけれど、この人になりたいという人と一緒に働くというのは動機としてものすごく純粋で気持ちがいいものだ。
人は周りの人から思っている以上の影響を受けている。
彼はその次の週に九州の作家さんに弟子入りし、陶芸の道を歩んでいる。(はずだ)
次は「超いいね!」と答えられる報告を楽しみにしている。